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「持田先輩」
塾に行くと、学習室で久しぶりに持田先輩を見かけた。
試験だ、雪だ、発表だ、とあっと言う間に日々が過ぎて、もう冬も終わりにさしかかろうとしている。
この時期になると、三年生はほとんど顔を出さない。先輩は見るからに疲れていたけれど、声をかけると少し気まずそうに微笑んだ。
塾の壁に貼られた合格者の名札で、持田先輩がすでに何校かの私大に受かっていることはわかっていた。あらかたの試験は終わっても、国立の発表を控えていたから、まだどことなくピリピリした雰囲気が残ってる。
「すごいね、浅野」
持田先輩は俺に言われる前に、早口で先んじた。別にそんなつもりなんかなかったのに、それだけ先輩の方が気にしてるってことなんだと思う。
無理もなかった。涼太の快進撃は、持田先輩にとって衝撃的だったはずだから。
「本当に受かっちゃうんだもんな、それも有名大学ばかり」
「昔から涼太、運は滅茶苦茶強いから」
俺は家に次々に届く合格証をちらりと思い出した。涼太は受かったらもう、興味もないみたいで、そこらへんに放り出しておく。
持田先輩はそそくさと筆記用具をまとめだし、ノートを束ねた。
「運じゃないだろ。一校ならともかく上位の大学、軒並み合格してるって聞いたよ。俺なんか志望できるランクですらなかった。学校でも先生たちが逆に興奮してたからね。何をやったんだって」
「そうですか」
下手に余計な事は言えなかった。俺は話題を変えた。
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