12.春の風……涼太

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 今度、新たなプロジェクトがある。これに加担しないか、と。  要は遺伝子治療の応用だった。まだデザイナーベビーなんて言葉もなかった頃だ。  受精卵に人為的操作を加える。大義名分は病気の予防だが、そこからさらに上乗せして、ビジュアルの選択、体質の矯正、能力の強化、全てにおいて依頼者の好みにあう理想的な子供を作る。  当時の日本でその分野に本格的に着手した研究機関はまだなかった。  だがすでに遺伝子レベルのコントロールは世界で注目されつつあり、研究室ではすぐにも実験に移行したい勢いだった。  もしこれが成功し、遺伝子操作の可能性が証明されれば、大きなビジネスに繋がる。法的問題がクリアになるのを待っていたら、せっかくの研究が遅れをとってしまう。  更なる出資を望まれ、ばあさまはここに一つの交換条件を出した。  だったら、とびきり優秀な子供を、浅野の家のために作ってもらえまいか。  どんな子供ができたとしても、養育に関しては責任を持つ。その証として本家の養子として迎え入れ、成人までのバックアップを約束しよう。  お互いの利害が一致し、秘密裡に実験は進められた。  研究者は出来うる限りの努力をした。理想的なドナーから、精子と卵子と手に入れる。受精卵に人為的な操作を加え、さらにあらゆる能力を盛り込む。    そう数多くの実験ができないため、一つの受精卵には多種多様の能力を刻んだ。どこまで子供に反映されるのか、その結果を確認するのが実験の最大の目的だった。
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