12.春の風……涼太

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 多額の支払いと引き換えに、健康な母体提供者に着床させ、胎児の成長を記録しながら出産を待つ。だが、その時の実験二十体のうち、着床に至らなかったものが過半数、着床しても次々に原因不明の死産に見舞われ、臨月まで辿りつけたのはただの一体しかなかった。  その一体に全ての希望は繋がれた。無事出産に至り、研究室は快哉を叫んだ。    だがその段階にきて、外国の研究機関が早くも実験内容を学会で公表した。発表自体は抜け駆けされたが、内容的にはこちらの方が勝っていた。  しかし、安心したのもつかの間、問題はそこからだった。命を扱う分野での行き過ぎた科学操作に、倫理的観点からNGが出たのだ。命の冒涜であると、世間や宗教団体から猛反発をくらった。世論の拒否反応は想像以上だった。  研究室に特別招集がかかった。  それよりさらに行き過ぎたこの実験が、世に受け入れられるとは到底思えない。  健康な受精卵に操作を加えている点、さらに実験体がほぼ死亡している時点で、命を弄んでいると非難されるのにじゅうぶんだった。そもそも法の整備を待たずに行った実験は、内容が明るみになれば犯罪になりかねない。  口外禁止の誓約書を取り交わし、全員一致で実験は中止になった。  生まれた子供は様々な書類を偽造し、身元不明の捨て子として、ばあさまが引き取った。そして一切の事情を明かさず、子供を切望していた息子夫婦に託した。
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