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善良な息子は、今回ばかりは適任だった。夫婦で無償の愛情を注ぎ、長年の子作りの重圧から解放されて、楽になったのだろう。
数年後、あれほど治療を受けても出来なかった待望の実子が生まれた。
ばあさまは、ふたたび決断を迫られた。
二百年以上続く旧家である。まず優先すべきものは血統だった。先祖代々から譲り受けた資産と土地は、その正しき血筋に受け継がれねばならない。中身は優秀でも、人工的に作られた養子は縁もゆかりもない生き物である。結論は出ていた。
『あんたには、成人したらこの家を出てもらうよ。』
ばあさまが俺にそれを伝えたのは、俺が小学生の時だ。
かつて俺がもらい子であるということを、誰からの情報で漏れたのか、瑞樹は執拗に聞きたがった。俺はあえて答えなかったが、漏れたわけじゃない、はっきり宣告されたのだ。
それまで俺はのびのびとやっていた。
家族の間で、多少の違和感はあったけれども、さほど気にしていなかった。
自然に振る舞えば、何でもできた。できない事が不思議だった。走れば誰よりも早かったし、どのスポーツもすぐに要領は呑みこめた。勉強を勉強と思ったこともなかった。一度見聞きすればその内容は全て記憶できたし、わからない、という感覚がなかった。
小さい頃は、無邪気にそれを楽しんでいた。
リレーの選手に選ばれるとか、いつもテストで百点だとか、その程度の目立ち方で済んでいた。
だけど学年が上がるにつれそれがだんだん、数値として結果に残るようになってきた。短距離走の記録で教師をざわめかせ、知能テストで異常値をはじき出した頃、俺はばあさまに呼ばれた。
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