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『わたしは、あんたを子供扱いはしないよ。これから説明する話の意味を、あんたは全部わかるだろうからね。』
そこから始まった一連の事情により、俺は行動を著しく制約された。俺の出生のいきさつは絶対に秘すべきものとして、ばあさまに釘を刺された。
俺が全力を出せば、その異端ぶりは世間の目に止まる。
確かに、本気で何かの競技に取り組めば記録を塗り替える可能性が高い。勉強も同じだ。国内では限界があるが、スキップ制度のある外国の大学なら準備次第で入れると思った。
どちらにしても注目を浴びることだけはしないでくれ、というのが、ばあさまの要望だった。 注目されれば根掘り葉掘り経歴をほじくられる。今時はマスコミが何をかぎつけるかわからない。実験の全貌が明るみになれば、大学も『浅野』も終わりだから、と。
俺も、周りと自分との違いを肌で感じはじめていた頃だった。
ばあさまの一方的な言い分に腹も立ったけれども、納得せざるを得なかった。
まず、第一に俺は子供だった。
反発して自由になろうにも、年齢も体格も足らなかった。
そして俺は、父さん母さんも、瑞樹も好きだった。
俺がこれまでさほどの疑問も抱かず幸せだったのは、両親が大切にしてくれたからだ。
父さんが必死で守ってきたささやかな世界を、俺のせいで壊すことはしたくなかった。
だから俺は、ばあさまの言いつけに従い、無能の日々を送ることを選んだ。
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