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俺は姿勢を正すと、ばあさまに正面から向き直った。
「その約束のことだけどさ。もう、いいかな」
「破っておいて今さらなんだい」
「俺、もう嫌なんだ。思い切り力を出してみたい。子供のころ全力疾走したみたいに、加減なしで」
ばあさまはフン、と鼻を鳴らした。
こういう情にほだされないところもいい。俺は誰かに泣かれるのは嫌いだから、同情めいた顔されたら本音の続きが話せなくなる。
「遺伝子いじくったって、その能力がどこまで開花するかなんて実際は未知数だろ。飼い殺しされるの、もう飽きたよ」
「出ていくつもりだね」
「そうだよ」
俺は正座のまま、ばあさまから目を逸らさなかった。
ゆっくりと湯呑から湯気が立ち上がる。
ばあさまは合格証の束を開き、一枚一枚中身を確かめた。
「……この結果を見る限り、実験はある程度成功だったんだろうね。研究室の先生方は、ずっとあんたのこと心配してたから喜ぶだろう」
「んー、高校入ってから一切勉強してなかったから少し焦ったけどね。瑞樹のヤツ、人の気も知らずにずっとあおり続けてくるし」
「みっくんか」
ばあさまの口元がゆるんだ。
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