12.春の風……涼太

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 俺は姿勢を正すと、ばあさまに正面から向き直った。 「その約束のことだけどさ。もう、いいかな」 「破っておいて今さらなんだい」 「俺、もう嫌なんだ。思い切り力を出してみたい。子供のころ全力疾走したみたいに、加減なしで」  ばあさまはフン、と鼻を鳴らした。  こういう情にほだされないところもいい。俺は誰かに泣かれるのは嫌いだから、同情めいた顔されたら本音の続きが話せなくなる。 「遺伝子いじくったって、その能力がどこまで開花するかなんて実際は未知数だろ。飼い殺しされるの、もう飽きたよ」 「出ていくつもりだね」 「そうだよ」  俺は正座のまま、ばあさまから目を逸らさなかった。    ゆっくりと湯呑から湯気が立ち上がる。  ばあさまは合格証の束を開き、一枚一枚中身を確かめた。 「……この結果を見る限り、実験はある程度成功だったんだろうね。研究室の先生方は、ずっとあんたのこと心配してたから喜ぶだろう」 「んー、高校入ってから一切勉強してなかったから少し焦ったけどね。瑞樹のヤツ、人の気も知らずにずっとあおり続けてくるし」 「みっくんか」 ばあさまの口元がゆるんだ。
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