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「言った」
俺はきっぱりと答えた。ばあさまは間髪入れずに問い返した。
「どこまで話した」
「大丈夫だよ、ばあさまとの約束には触れてない」
俺は昨日の修羅場を思い出して少し顔をしかめた。
「一応さ、今回、受験にはちゃんと取り組んでみせたから、それを引き合いにしたわけ。本気で勉強してみて、逆にこれが俺のやりたいことじゃないって分かった、って言い切っちゃた。瑞樹はぎゃあぎゃあ騒ぐし、父さんは卒倒しそうだったけど……まあ、家から出ちゃえば、嫌でも納得するしかないでしょ」
「……そうか」
ばあさまは、着物の懐からカードを取り出して俺に押し付けた。俺名義のキャッシュカードだった。
「餞別だ。もっていきな」
俺は激しく首を横に振った。
「いらないよ」
ばあさまに返そうとしたけど、有無を言わさぬ力でまた押し付けられる。
「あんたはどこでもやっていけるだろうけど、持っていて邪魔になるもんでもない」
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