880人が本棚に入れています
本棚に追加
ばあさまは引かなかった。
俺は、それでも立ちあがりざまに、カードをテーブルに置いた。立ち上がってばあさまを見下ろすと、いつもよりすごく小柄に見えた。
少し、切ない。
なんでかわからないけど。
俺は、歪みそうになる顔をこらえた。我慢した分だけ不愛想に言う。
「これもらったら最後じゃん。俺、ばあさまのこと好きだよ。浅野は継がなくても、ばあさまともう会えないのは嫌だ」
ばあさまは、俺の目を見返した。
「そうじゃない、あんたの方が会いに来なくなるのさ」
「俺? なんで」
「本来、あんたはこの家におさまってるような子じゃないんだよ」
ばあさまは、そう言って一瞬だけとても優しい顔になった。
俺は、そのまま出て行くことをためらって、束の間、動きを止めた。
ふいに気付いた。
この家に一番、縛られてきたのも、その息苦しさを背負ってきたのも、ばあさまだ。
「ねえ、もしかして、ほんとは俺のこと、家から出すんじゃなくって、逃がしてくれようとした? だから……」
それ以上、何をどう言えばいいのかわからなかった。
そんな俺を待たずに、ばあさまは、軽く頭を振った。いつもの低い、よく通る声だった。
「行きな」
ばあさまはもう、俺を見なかった。そのまま背を向けて本を開く。
こうなったら絶対にもう振り返らないのを俺は知っている。
俺は頭を下げて、浅野の家を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!