12.春の風……涼太

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 ばあさまは引かなかった。  俺は、それでも立ちあがりざまに、カードをテーブルに置いた。立ち上がってばあさまを見下ろすと、いつもよりすごく小柄に見えた。  少し、切ない。  なんでかわからないけど。  俺は、歪みそうになる顔をこらえた。我慢した分だけ不愛想に言う。 「これもらったら最後じゃん。俺、ばあさまのこと好きだよ。浅野は継がなくても、ばあさまともう会えないのは嫌だ」  ばあさまは、俺の目を見返した。 「そうじゃない、あんたの方が会いに来なくなるのさ」 「俺? なんで」 「本来、あんたはこの家におさまってるような子じゃないんだよ」  ばあさまは、そう言って一瞬だけとても優しい顔になった。  俺は、そのまま出て行くことをためらって、束の間、動きを止めた。  ふいに気付いた。  この家に一番、縛られてきたのも、その息苦しさを背負ってきたのも、ばあさまだ。 「ねえ、もしかして、ほんとは俺のこと、家から出すんじゃなくって、逃がしてくれようとした? だから……」  それ以上、何をどう言えばいいのかわからなかった。  そんな俺を待たずに、ばあさまは、軽く頭を振った。いつもの低い、よく通る声だった。 「行きな」  ばあさまはもう、俺を見なかった。そのまま背を向けて本を開く。  こうなったら絶対にもう振り返らないのを俺は知っている。  俺は頭を下げて、浅野の家を後にした。
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