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手紙の封は一見、閉じていたが、よく見ると開封された跡が残っていた。
読んだのは涼太か瑞樹のどちらかか、それとも両方か、それもわからなかった。手紙はしっかりした厚みがあり、余計なことは一切しゃべらない和真が何枚もの便箋に気持ちを綴ったのであれば、それはよほど伝えるべきことなのだろう。
正直、困った。
他人あての手紙を俺が持っていていいわけがない。返さなくてはならないと思い、一応卒業式の日に持って行った。だが事情をうまく説明できる自信がなかった。和真にしても、涼太にしても、第三者の俺から大事な手紙を渡されたら、余計にこじれるに決まってる。
表書きで住所がわかるから、浅野家のポストに直接投函してしまおうかとも思った。いっそ、切手を貼り直して郵便で送ってもいい。
でもその先、確実に涼太の手に渡るかは曖昧だ。実際、邪魔が入って手紙は俺の手の中にある。瑞樹が先に見付けたらどうされるかわからない。
あれこれ考える事に疲れて、俺はこの手紙の件を一時保留にした。
合格発表や入学手続きでガタガタしているうちに日にちは過ぎ、ずっと引っかかった気持ちのまま三月も後半にさしかかっていた。
俺はようやく覚悟を決めた。
やっぱり、瑞樹だ。
瑞樹が持ってきたなら、瑞樹に返すべきだ。
俺はそう決めて、瑞樹に直接この手紙を突き返すことにした。何度もつけまわすようなことはしたくないから、できる限り高確率で接触できる日時と場所を考えた結果がこれだ。
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