874人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あれ、涼太? なんで?」
ぼんやりしてる和真の顔に、一瞬、小学生の頃の面影を思い出す。きょとんとすると急にあどけなくなるところは変ってない。
「ごめん、玄関開いてたから、入っちゃった」
和真は眉を寄せた。途端に、いつもの大人びた和真に戻った。
「今、何時?」
「夕方。四時ぐらい」
「ああ、やっちゃったか」
和真は溜息をついた。そして言い訳するみたいに続けた。
「医者から戻ってそのままつぶれちゃったみたい。そういえば鍵かけた覚えないや」
「それ倒れてたっていうんじゃないの」
「ただの風邪だよ」
どうにか体を起こしたものの和真の上半身はふらふらしていた。
俺は和真と部屋を交互に見た。普段きちんとしている和真と不釣り合いに部屋が散らかってるのは、きっと片付けられなかったからだ。
そのくせ目が合うと、和真は何でもないように微笑んだ。いつもはその穏やかさが好きだけど今日は違う。和真が作る距離はそのまま俺たちの関係そのものだ。
あったことをなかったことにして、夏からずっと、俺も和真も上手くやってきた。
けど、その事に俺はずっと、苛立ってもいたのだ。
だって確かにあれは事実なんだし、そこには俺の和真への本当の気持ちがある。
最初のコメントを投稿しよう!