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明らかに俺は見下されていた。
手紙を渡したのだって和真の名前をみれば俺がほいほいとそれに食いつくと思ったからだろう。中学生に馬鹿にされていたのかと思うと、俺はカッとなって瑞樹の胸倉を掴み上げた。
「ふざけるな!」
「……んだよっ」
瑞樹の目に凶暴な色が滲んで、拳を振り上げた。肩からカバンが地面に落ちる。
俺はなんなくその拳をかわし、そのまま瑞樹の手首を掴まえると、体ごと一気に壁に押し付けて動きを封じた。
ざざっと足元のアスファルトに靴が引きずられた音が立つ。
背格好はしっかりしているが、多少鍛えたところでやっぱりまだ骨格が脆い。瑞樹の額の血管が膨らんで、くやしそうに舌打ちされた。
「くそっ、馬鹿力! 今頃、何の用だよ! 和真のマンションに行って振られたの?」
「行ってない」
俺は瑞樹を抑え込んだまま、短く答えた。怒っているのは俺のはずなのに、瑞樹の方がよほど荒んでいるように見えた。瑞樹は尚も俺を責めたてた。
「なんだ、あんなにヒントあげたのに一人じゃいけないの。とんだ意気地なしだ」
瑞樹の露骨な挑発に、俺は鼻白んだ。これまでの礼儀正しさとの激しいギャップに言葉を失う。黙った俺が弱気になったと思ったのか、瑞樹は底意地の悪い笑いを浮かべた。
「和真も涼太もすごい熱烈だよね。これ読んでどう思った、先輩?」
俺は手を離すと、手紙を瑞樹の胸に叩きつけた。その気迫で瑞樹の体が飛びあがった。
「知るか。俺は読んでない」
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