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すごい勢いの反論だった。
「俺と涼太と一緒にすんな! 涼太は俺みたいに卑怯じゃない。何でもできるんだから、そんなことする必要ないんだ。手紙は俺が涼太が見る前に盗った。どっちみち読んでも読まなくても涼太は和真のことしか頭にない。なのに和真はこんな紙切れ一つでさらに涼太を奪いに来る。だからだよ!」
俺はその猛然とした気迫にのまれた。
俺はずっと、瑞樹は涼太に呆れているんだと思っていた。適当だの頼りないだの、いままでさんざん言っていたのは瑞樹の方だったはずだ。
だが、この言い草はどう考えたって涼太をかばってる。
「……とにかく」
俺は瑞樹の豹変ぶりについていけないまま、もう一度手紙を瑞樹に渡した。
「手紙は涼太に返せ。絶対だぞ」
「無理だよ」
だが、今度の返事も早かった。
「まだそんな事を、」
言い切る前に、瑞樹が怒鳴った。
「仕方ないだろ! 今頃、もう駅だ。俺が止めたって全然聞く気もない。涼太のやつ、一人で勝手に決めて、さっさと出て行っちゃったんだから!」
瑞樹の握りこぶしが、ぎゅっと固くなる。俺は事情がわからず聞き返した。
「さっさと、って、もう下宿か?」
「そうじゃない、俺だって訳がわかんないんだ。大学受かったのに、ぜんぶ棒に振って働くって言うんだから! 写真なんかコンテストに送らなきゃよかった。俺はもう、てっきり涼太はもう、これで、家に、ずっと、ずっといるんだ、って思って……やっと…安心して……」
言いながら、唐突に瑞樹の顔が歪んだ。
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