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「ちょっ、」
「見んな、馬鹿!」
みるみる瑞樹の目に水が張って、涙がこぼれた。
俺はあっけにとられてぼろぼろ泣く瑞樹を見ていた。
はじめから感じていた過剰なまでの苛立ちはこのせいだったのか、瑞樹はそのまま堰を切ったように泣き、涙を拭おうともしなかった。
その泣き方は無防備過ぎて、俺はあまりに丸裸な感情を目の当たりにして絶句した。
小さな子供を泣かせてるみたいで死ぬほどバツが悪い。泣きたいのはこっちなのに。
「洸……?」
途方に暮れた俺の背中の後ろに、突然声がかかった。
俺は今度こそ自分が窮地に陥ったことを知った。
「やっぱり洸だ。なんで瑞樹を泣かしてるの」
和真が立っていた。
私服姿の和真は、コンビニの袋を片手に、怪訝そうに俺たちに近づいてきた。黒のタートルネックのセーターの上に、ブルーグレイのシャツを羽織っただけの軽装で、いかにも近所の買い物帰りだ。
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