884人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は瑞樹を押さえていた手を離した。
なんでこいつをかばったのか、自分でもわからなかった。
さんざん裏表を見せられて腹を立てていたくせに、それでもさっきの涙を嘘とは思えなかったからかもしれない。
手を離したのに頭を下げたまま、瑞樹はようやく、ごめん、と言った。
その謝罪の声はあまりに小さくて、意地やプライドや、恥ずかしさに邪魔されてようやく絞り出した感じだった。優等生ヅラしてたのはどっちだ、と俺はまた説教をしたくなる。中学生どころか、やってることは小学生の悪ガキだ。
「……もう、いい」
和真は色々を呑みこんで、そのまま俺たちに背を向けた。
思わず俺が足を踏み出すのと同時に、瑞樹が動いた。腕で荒っぽく顔を拭くと、和真の袖を引っ張る。
「待って。その手紙、俺、涼太に届けるよ。責任とらないと」
「いいよ、離して」
和真は顔を背けた。だが瑞樹は食い下がった。
「まだ、駅にいる。乗る予定の電車あと少し時間がある。走れば間に合う」
「駅……なんで?」
和真はさらに大きく目を見開いた。
「涼太、就職で上京しちゃうんだよ。このままもう二度と会えなくなるかもしれない。嫌なら、手紙だけでも俺が届ける」
最初のコメントを投稿しよう!