2. 秋の部屋……涼太

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「わざわざごめん。もういいよ、遅くなるから帰りなよ」 「違うだろ」 俺は目に力を込めて和真を睨んだ。戸惑う和真をそのままソファーに押し戻す。 「熱、測って。体温計どこ? 親、いつ帰ってくんの? ばーちゃんは?」 「待って、いっぺんすぎる。それに全部涼太には関係ない。後は俺がやるから大丈夫」 和真は肩を押した俺の手を外そうとした。 「放っとけるか馬鹿! 納得いくまで俺、帰らないから」 「相変わらず一方的……」 言葉の途中で、和真は額を押さえた。吐き出した息が熱かった。 「ごめん薬、くれる?」 「あ、うん。どこ」 「玄関の、コンビニの袋に一緒に突っ込んである。それから父親は出張で戻りは二か月先、ばーちゃんはこの間、施設に入った」 どさくさ紛れに一気に言った和真の答えに俺はぎょっとした。 「ちょっと待って、それってほとんど一人暮らしじゃん。いつから?」 「先月ぐらい」  薬を渡すと、和真はテーブルに置いたままのペットボトルのお茶で流し込んだ。  コンビニの袋には栄養ドリンクしか入ってなかった。リビングの様子を見る限り食べてる感じがしない。あるのは飲みかけのペットボトルばかりだ。和真はそのままずるずるとソファーによっかかる。 「具合悪いのにここで一人だったの?」 「まあ、そう。でも慣れてるから大丈夫。元々父親はほとんど出ずっぱりだし、ばーちゃんはここ何年かは病院出たり入ったりだったし」 「もういい」 俺は不愛想に断ち切った。  病人相手に何やってんだ、と思ったけど抑えきれなかった。怒った顔のまま、いきなり和真の躰を抱き上げた。
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