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「何すんの」
「寝室ってどっち」
「右奥の部屋」
「入るよ」
俺はそのままずかずかと和真の部屋に入り、ベッドに和真を寝かせた。
驚いたままの和真の額をもう一度触る。ああもう、絶対冷やさなきゃ駄目なやつだ。それとごはん。毛布を掛け直し、ポケットの財布を確認する。
「いいか、ちゃんと寝てろよ。絶対起きんな」
「涼太、もういいって」
「すぐ戻るから!」
全然意思疎通にならない会話を秒速でして、俺はコンビニとドラックストアに走った。
雨が本格的に降り始めてた。
滅茶苦茶息切れしながら会計し、不審がられながら一目散で和真の家に戻る。我ながら凄い速さだった。もはやチャイムも鳴らさず、靴もすっとばして中に入った。
「和真、おでこ冷やそう」
返事はなかった。わずかの間で、和真はもう眠っていた。
俺は部屋のベットサイドの灯りだけつけて、和真の顔を覗き込む。冷却シートを額に貼っても、和真は起きなかった。熱を帯びた浅い呼吸に耳を澄ませる。喉元が苦しそうだったから、シャツの第一ボタンを外して、そのまま俺の手は止まった。
こんな時なのに、俺の頭の中はあの夏の庭に引き戻される。
恐る恐る汗ばんだ和真の首筋に触れ、青くふくれた血管をなぞるようにしてその指先を鎖骨に滑らせた。湿った肌から伝わる体温に、全部が一気に蘇る。
俺はその先も知ってる。もっと奥の熱いところも。
「……ん、っ」
和真の呻き声にびくっとして、俺は慌てて手を引っ込めた。そのまま握りこぶしにしてぐっと力を籠める。
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