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だけどあの夏の日、あの庭で偶然、和真を見つけて、俺は自分でも収集がつかないくらい舞い上がってしまった。強烈な日差しの下で、木漏れ日できらきらしていた和真は、すでに、彼女以上に綺麗だった。
汗で貼りついたシャツから、細い体のラインが浮かび上がる。
緑の照り返しに染まる白い肌。隣に座ったときのはにかんだ横顔。
そのぜんぶが、息がつまるほどに艶めかしくて、俺のリミッターを壊した。
我慢できなくてキスしたら、和真、なかったことにしようって言っただろう。いつもの大人びた顔で。
なかったことに?
俺、おかしくなりそうだった。なんでわかんないだって。どんだけ鈍いんだって。
どうすればわかるんだって。
問いかけるように、気持ちをぶつけるように、和真を抱いた。そんなやり方じゃ伝わるものも伝わらないだろうに、あの時の俺はそれしかできなかったんだ。
あの後からしばらくして二人の関係は変わったけど、俺は全然、和真を自分のものにしたって実感はわかなかった。
受験前に委員長が和真に横恋慕してきただろ?
あの時にしみじみ思った。もう和真を他の誰かの目から隠すことはできない、って。
いつかその時はくるって思っていたけど、こんな風に直接、和真に気持ちをぶつけてくる相手は、委員長を皮切りにどんどん、増えていくだろう、って。
でもそれはもう、仕方ないことだ。
そもそも、人は誰かのものになんてならない。抱いてる時は繋がれるけど、その一瞬でまた離れてしまう。
でも、体を重ねたその瞬間は俺の中に残ったから、もう、大丈夫だと思った。
会っても会わなくても、近くにいても、離れてることになっても、その記憶があれば大丈夫。
俺は和真がずっと好きだ。それでいい。
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