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俺が改めて名前を呼んで微笑むと、洸は急に落ち着きを失くした。
「ええと、あのさ、これからゼミの飲み会なんだけど、和真もどう? ほら、七夕だから公園でバーベキューするんだって。飛び入り自由って言ってたから」
「楽しそうだけど、今日は先約があって」
俺は、ごめん、と、顔の前で手を合わせた。
洸は大袈裟に首を横に振り、いや、いいんだ、ほんといいんだ! と、連発する。
春休みに告白された時にはすごく驚いたけど、結局、何事もなかったように友達に戻ってくれて有り難かった。
もっとも、洸は親切だから、そういう気持ちを勘違いしただけなんだと思う。
洸は自分を単なるお節介とか、断り下手とか言うけど、高校時代、一貫して委員長を任されていたのだって人望が厚いからだ。
涼太を見送った日、瑞樹が俺の手紙を洸に渡したと知った時は、少なからずショックを受けた。だけど今にして思うと、瑞樹は真面目な子だから、洸の力になりたくて、ひどく思いつめてしまったんだと思う。最近、洸は瑞樹の家庭教師をはじめたっていうし、この二人はしっかり者同士で、波長が合うのかもしれない。
俺がぼんやり考えてると、洸は、話題を変えた。
「どう、和真は。親しく話せるような友達とか、できた?」
「んー……まあまあ」
俺は苦笑いした。
大学に入ってからも、俺の人付き合いの悪さはそのままだった。特に飲み会はめったに顔を出さない。それなのに皆がいつも欠かさず誘ってくれるのが心苦しくて、この間、珍しく参加したら周りにどよめかれた。
「先約って……、誰?」
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