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洸は俺の横を歩きながら、ぼそっと聞いた。俺が洸の方に顔を向けると、ぐいっと、あらぬ方向を眺める。
「あ……いいから、こっち、そんな見ないでいい」
洸はしどろもどろだった。
「なんで。話してるのに」
「なんか、夕日が和真に当たって、すごく……キラキラして、まともに見れない」
洸は額を抑えて溜息をついた。綺麗すぎるんだよ、と聞こえないぐらいの声で呟く。
確かに、オレンジだった空は茜色に塗り替わり、沈んでいく太陽が鋭く光って、見事な夕焼けだ。俺もついうっかり正視してしまい、目を細めた。
「ほんと眩しいな。日没ってあっと言う間だ」
う……ん、いや、まあ。と洸は煮え切れない返事をする。
歩調のゆるんだ俺たちを、同じ学部の他の生徒たちが追い越していく。通り過ぎざま、お疲れさまー、と声をかけられ、俺はなんとなく会釈する。
「知り合い?」
「いや、どうだろう。俺、人の顔、あんまり覚えないから。でもこの大学の人たち、わりとみんな気さくだよね。よく声をかけられる」
「それは、余計なガードがなくなったからだろ……和真、自分が白衣の天使って呼ばれてるの知らないのか。お前が実験してるとこ、別な学部からも覗いてる奴いるらしいぞ」
「俺、看護婦じゃないよ」
俺の答えに、洸は呆れたように肩をすくめた。夕日は洸にも降り注ぎ、顔が赤く照らされている。もうすっかり日暮れだ。
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