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昨夜、かなり遅い時間だった。
携帯に涼太の名前が浮かぶ。俺は知らず、飛びつくように電話をとる。
「和真、元気?」
涼太の電話は、向こう側の涼太が笑ってるってわかるほど明るい声ではじまる。
「いつもどおりだよ。結構、カリキュラムが詰まってて、勉強三昧。そっちはいまどこ?」
耳にあてて聞く涼太の声は近かった。まるで傍にいるみたいだ。
だけど実際は、とても遠い。
あの春の浅い日に涼太を見送ってから、ずいぶん経ってよれよれの手紙が届き、その後、またしばらく空いて携帯が繋がるようになった。
その連絡も時差のせいかいつも唐突で、大抵、国外だった。だから俺は、電話がくるとまずどこにいるのか尋ねる。
涼太の声はいつになく明瞭だった。
「いま、成田。たぶん、明日そっちに行ける」
馬鹿正直に、心臓が跳ね上がった。
「だいじょうぶ? この間は即、出立だったじゃない。メキシコだっけ」
「そう、先生がグアナファトの街並み撮りたいって言いだして。あんときは、せっかく日本に戻ってきたのに、携帯の手続きしかできなかったからなー。ごめんな、約束やぶってばっかで」
「いいよ。写真、見た。クレヨンを並べたみたいな色彩の建物が可愛かった。夜景もいい」
俺は、期待しないように、自分を抑制する。
「今回は大丈夫。言われる前に逃げるから! 庭で待ってて。和真、一日授業だろ。俺の方が先かもしれない。着いたら連絡する。七夕だからさ、一緒に星をみよう」
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