15.ふたたびの夏の庭……和真

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俺の心配を見透かしたように、涼太は力強く言い切った。 その後ろで搭乗案内のアナウンスが聞こえてくる。俺はその言葉が日本語であることが嬉しかった。間違いなくすでに国内だ。 涼太は同僚に呼ばれたらしく、慌ただしく電話は途切れた。部屋のカレンダーを見上げると、確かに明日は7日だった。『じゃ、また』の『また』がすぐであることに、やっと実感が沸く。  電話を切っても、俺はふわふわした気分のまま、一日を過ごした。  おかげで今日の講義は、あまり頭に入っていない。だけど、上の空で何度も携帯をみても、涼太の着信はなかった。  ……やっぱり今回も、微妙かな。  時間の経過とともに、膨らんだ気持ちが萎んでいく。舞い上がった分だけ、下がりが大きい。この前も、その前もそうだったから。 帰る道すがら、住宅地を歩いていると、各々の家の軒崎に笹が立てかけてあった。揺れる短冊に煽られるように足を早める。 子供の頃は、短冊に何を書けばいいのかわからなかった。 あれが欲しいとか、こうなりたいとか、そういう願望が乏しくて、俺はひたすら自由に、時間の制限も監視の目もなく、緑の庭の縁側で眠っていたかった。  今なら何を書くだろう。 願いはいつも、その時の俺の心を映す。  わかりすぎていた。涼太に会いたかった。  図書館での一件から二人きりになってない。疎遠になって気付けば、半年をゆうに越している。  商店街を抜けると、七夕セールをやっていて、大きなバケツにささやかな笹が刺さっていた。『ご自由にお持ちください』の張り紙がしてあったけど、今さらのタイミングだからか、気の毒なほど残っていた。 俺は一本手に取り、そのまま持ち帰った。
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