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ぎゅ、って心臓が痛くなった。
柔らかくて熱くって、離れられずにいた。その至近距離で和真の瞼が震えた。でも、俺はもう、飛びのいたりはしなかった。
「……また、したくなったの?」
目覚めた和真は、しばらくの間、俺を見つめたあと、掠れた声で言った。俺は、正直にこっくり頷いた。
「ホントはいつもしたいって思ってる」
「駄目じゃん、二度目じゃ言い逃れできないよ」
かわされるかと思ったけど、和真も逃げなかった。誤魔化しきれなかったのは熱のせいかもしれない。和真は前髪を掻き上げた。あんまりしないけど、困ったときのくせだ。
「この間は乱暴にしてごめん」
俺ははっきりと口に出した。ガラス越しに雨の音が急に目立ちはじめた。
あの日のことを言葉にしたのはこれが初めてだ。和真の白い頬にしゅっと赤味が差して、目をそらした。
「そういう事、具合悪い時に言うの、ずるくない? 俺いま、頭、働かないんだ。なんて答えたらいいのかわかんないよ」
「二人きりでいると、我慢きかないみたい」
俺は困り顔のまま、どうしようもなくて笑った。
「好きだ」
「だからそういう、」
「ごめん、本気なんだ」
和真は答えなかった。
雨がどんどん強くなって、辺りが一気に夜に染まる。叩きつける雨粒が激しく暴れて、俺たちは二人して水の中でカプセルに閉じ込められたみたいに沈黙する。
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