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「うわあ、気持ちいー」
俺は額を伝わって顎からしたたり落ちる汗を、腕で拭った。
でも汗は次から次へと流れてくるから、ついにTシャツをがばっとめくってガシガシ顔を拭いた。瑞樹が見たらハンカチでも差し出されて、服で拭くのなんて駄目だよ!とたしなめられるところだ。
瑞樹は弟のくせにしっかり者で、俺が自由すぎるせいか世話を焼いたり呆れたり忙しい。この間階段で、どんだけ高い処から飛び降りることができるか試してたら、『うわあああ、何やってんだ、危険だろ!』って走ってきてこけて『涼太のせいだ』って涙目で訴えた。
俺は思い出し笑いで、くくっと喉の奥を鳴らす。
「何やってるの、涼太」
まさかの聞きなれた声が、後ろからして、俺は、え?と振り返った。
俺が潜り抜けてきた木のトンネルの逆側の木立から、和真が顔を覗かせている。
俺はまだ目が慣れてなかったから、慌てて瞬きをした。
そこにいる和真は、これまで学校で見る和真とはちょっと違っていた。和真は集団の中では、いつもスッと人の輪からはずれている。悪く目立つほど他人を寄せ付けないわけじゃないけど、無理をして馴染んだりもしない。ただ、理解され難い、そういう感情に気づかれないよう、ひっそり存在していた。
でもここは和真の居場所だった。すごく穏やかな顔をしてたから、俺にはよくわかった。一人が好きな和真が、自由にできる大事な場所なんだって。
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