3 秋の部屋……和真

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 涼太の明るさや屈託のなさを、俺はずっと幼さだと混同していた。  小学生だった俺たちが出会った時、俺の態度は最悪だった。  ――――――――――――望月和真です。  たったそれだけの挨拶を一番前の席で瞬きもせずに見ていたのが涼太だ。  転校生の俺は、両親の問題がきっかけの引っ越し直後だったから、愛想よくふるまう気にもなれなくて、一人でしらっとしていた。  はしゃぐ同級生にむかつき、休み時間の楽しそうな様子からは目をそむけ、あいつらバカみたいだ、って心の中で突き放しては無関心を装っていた。  学期半ばの転校だったから、クラスはもう仲良し同士で固まっていて、どっちにしろ俺が途中から入りこむ余地はなかった。  それでちょうど良いと思っていた。親しくなれば家の事情も漏れてしまう。父子家庭なんて今時珍しくもないことだったけど、あれこれ理由を話さないですむならその方がずっといい。  だからクラスの中心人物である涼太が声をかけてきた時、嬉しさより迷惑が先にたった。  俺は涼太に冷たかったと思う。  話には乗らないし、遊びにもついていかない。普通なら、望月ってつまんねえ、で切り捨てられて終わりだ。なのに涼太は殴っても殴っても起き上る風船の人形みたいに、しぶとく俺につきまとった。  なあ俺、望月のこと和真って呼ぶから、俺のことは涼太って言って? 浅野じゃなくて、涼太で。な?いいだろ、和真。な?  涼太は俺が意地でもそう呼ばないことを承知で、ずけずけと名前を連呼した。  能天気な笑顔に腹が立った。前の席から体を完全に後ろに向けて、たわいもないことをしゃべり続ける。テレビのこと、ゲームのこと、弟のこと、友達との会話のあれこれ。家でのやりとり、休みごとに行く家族旅行の顛末。話すうちに、地元の旧家の子であることや、生活のゆとりみたいなものまで自ずと伝わってきた。  幸せな毎日なんだな、と思えば余計に頑なになった。あんまりしつこくて、帰り道までついてくるから、ついに頭にきて怒鳴った。
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