3 秋の部屋……和真

8/11
前へ
/250ページ
次へ
 実際、俺は何にもわかってなかった、と思う。  おにぎりを一緒に食べて、ご機嫌だった涼太が、すぐそのあとでキスをしてきた時も、まだ遊びの延長だと思っていた。  昔から、涼太は人との距離感が近かった。よっかかったり、くっついてきたり。境界線なんて存在しないみたいに隣にいる。だから、子猫がじゃれて甘噛みするみたいなもんだと。  いつもよりさらに強引に食って掛かる涼太に、少し様子が違う、と思った。けど、その時にはもう両腕を掴まれて地面に押し付けられていた。  あれ……? 涼太って、こんなに力あったっけ?  俺はのしかかられながら、変に冷静にそんな事を思った。空が真上にある。寝転がされて視界全部が空だった。まぶしくて太陽を直視できない。  涼太はぎこちなく、だけど激しく俺の躰のあちこちに唇で触れた。くすぐったさと、これ以上のラインを超えることの怖さで俺は躰をすくませた。 「かずま、」  涼太の声が珍しく上ずっていた。耳たぶを齧られる。どこでそんなこと覚えてきたんだ、と言いたくなったけど、俺はつぎつぎと襲い掛かる慣れない感覚の連続に、息をするのがやっとだった。 「っん」  涼太の汗がしたたり落ちて、俺の額に伝って流れた。  逆光の涼太は部活の日焼けもあって、赤銅色だった。これって本当に涼太なのかな、俺はまたバカみたいなことを思う。  キスの位置がだんだん際どくなって、首から鎖骨を舐めるように下に降りてくる。Tシャツの中に忍び込んだ涼太の手は、落ち着きなくみぞおちや胸を触り続けていた。 そのせわしなさと、熱を持った手のひらが肌をなぞっていくと、俺の腰から下が脈打つようにずんと熱くなった。 「……だめだって」 「やだ」 憎らしいほど涼太にはためらいがなかった。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

874人が本棚に入れています
本棚に追加