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「あー、見つけちゃった。ごめん」
「なんだ、わかってて来たわけじゃないんだ。びっくりしたよ」
和真は柔らかく微笑んでくれた。よかった、迷惑がられてない。俺はほっとして、改めて笑いかけた。和真は木立の間から動かない。
和真は木の上から降り注ぐ日差しのせいで、何十色もの緑だけの濃淡で染め上げられたステンドグラスの下にいるみたいだった。そのせいで淡い生成りのサマーセーターは虫食いの葉っぱみたいに緑の影を映していた。
「ねえ、何やってたの」
「涼太こそどうしたの。俺は水やりをしてただけだよ」
「俺は探検してたらここに出た。それより水? 何で?」
がっついて聞いたら、和真は手元のホースを掲げてみせた。
「ここ、俺のおばあちゃんが前に住んでた家なんだよね。塀の代わりに樹木を植えてあるから森みたいな庭だろ。今は一緒に住むようになったから空き家なんだ。家って誰もいないと荒れるじゃない。後ろは山みたいに鬱蒼としてるし、丘を登るからもう、おばあちゃんには無理だし」
よく見ると、和真の持ったホースからは、とくとくと水が湧き出ていた。
「でもここはおばあちゃんが大事にしていた庭で、俺も好きだったからさ。だからたまに来てちょっと手入れする」
「ふーん……」
俺は腕を組んだまま、ぐるりと庭を見回した。
いつも和真の周りだけ静かな時間が流れているのは、気のせいじゃなかったんだ。こういう場所でおばあちゃんと過ごした時間がそういう雰囲気を和真にもたらしたのかもしれない。本当は一人で静かなのが好きってだけじゃなくて、人がいても騒がしくない、ゆったりした時間の流れの中で育ったのかもしれない。
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