4.冬の町……和真

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4.冬の町……和真

「兄ちゃーん、辞書貸して。俺、学校に置きっぱ――――――――あ、和真きてたんだ」  涼太の部屋で勉強していると、瑞樹が、ひょっこり顔を出した。  ここのところ、涼太の家に通っている。テストが近くなってろくにノートもとっていない事に危機感を覚えたのか、勉強を教えてくれと言われたせいだ。  涼太のやる気はブームのように盛り上がっては消え去り、俺はそのたびに巻き込まれる。断るにしても、中間ですでに赤点をとっており、落第すれすれの成績だから危なっかしくて放っておけない。  その点、弟の瑞樹は安心だった。宿題も課題も必ず仕上げ、復習も欠かさない。授業の内容を先に知りたいからって自ら志願して塾に通ってるぐらい勤勉だ。最近、めきめき大きくなって、中学生なのにすでに涼太の身長を越している。  小さい頃は、涼太の後ばっかり追っかけて、先回りして心配する母親のように口やかましかった。俺と涼太が遊んでても、そこに加わりたくていつの間にか近くに寄ってくる。眼鏡をかけて物知りで、同級生からはありがちに博士ってあだ名で呼ばれてた。最近はすっかり大人びて、眼鏡ごしの切れ長の目が短髪によく似合う。 「こんばんは瑞樹。なんか連日お邪魔してごめん」 「こら瑞樹、呼び捨ておかしいだろ、年上なんだから和真さんとか望月君とか!」 俺と涼太の声が同時にかぶる。
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