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「そんな」
「言っても否定するだろうけど、涼太は駄目な兄ちゃんになることで、実子である俺に全部を譲ろうと思ってるんじゃないかな」
瑞樹は、そういう馬鹿みたいな事をやるのがあの人なんだよ、と吐き捨てるように言った。
「和真が転校してくる前だから知らなくて当然だけど、ちっちゃい頃の兄ちゃんて、ほんと何でもできたんだ。勉強も運動も全部だよ。俺、憧れてたもん。誰より早く走る兄ちゃんとか、賞状もらいまくる兄ちゃん。自慢でさ。俺はフツーだけど、兄ちゃんは違う。
俺、ずっともどかしかった。赤点なんて手を抜いてるだけの話だ。いつまでしらばっくれてるつもりだって腹が立つ」
最後の方は独り言みたいなつぶやきだった。
でも下から足音が上がってきて、瑞樹は急に早口で続けた。
「それが和真には本気になるんだ。俺、嬉しかったんだよね」
俺はふいをつかれて、否定することもできなかった。涼太の足音が間近に迫ってる。瑞樹はふいっと立ち上がってドアに向かう。
「なあ、こぼれるからドア開けて―」
瑞樹は予測してたようにそのままドアを開けて、手がふさがった涼太からマグカップを受け取った。
「兄ちゃん、お茶飲んだら、そろそろお開きにした方がいいんじゃない。俺帰ってきた時、雪降りはじめてたよ」
「うっそ、そういう事は先に言えよ」
「忘れてた」
瑞樹は言いながら隣の自分の部屋に逃げた。どう考えても、この部屋に入ってきたところから計算づくとしか思えない。
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