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朝から底冷えがしていた。
きっとこの雪の予兆だったんだろう。
俺はいつの間にか白く染まった世界を歩いていた。
あれはいつだったろう。
蘇ってきた記憶は、夢の中でも仄かに暗いグレイだ。
路地裏を瑞樹が走っている。
あの日も雪だった。小さな瑞樹ははしゃいで駆け回って、俺たちがふざけて投げる雪玉から逃げている。慣れない雪遊びが楽しくて、俺たちは夢中で路地を行き来していた。
路上のミラーは曇り、視界はわるかった。そのうえ俺たちの動きは不規則で、雪玉から逃げるために出たり隠れたりを繰り返してる。
だからその狭い十字路の脇から乗用車が突っ込んできた時、運転手は全く瑞樹に気付いていなかった。
「あ」
一番最初にその危険に気付いたのは俺だ。
そしてその俺に気付いた涼太は、もう地面を蹴っていた。
止まれない車と立ち竦む瑞樹。
涼太はその間を一気に駆け抜けて、突き飛ばした瑞樹と一緒に道路の端に転がった。瑞樹の泣き声と車のブレーキの音が、無音を反転させてあたりに響き渡る。
一瞬の事だった。
涼太の速さは尋常じゃなかった。あの後、俺は何度も俺を横を風のようにすり抜けていった背中を思い出した。
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