4.冬の町……和真

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「じゃあ俺はこれで」 「やっぱ夕飯食ってけよ。トンカツだって今日。な?」 俺は首を横に振った。涼太はいかにも不満そうだ。揚げたてのトンカツだぜ?と重ねて言われたが、俺はにべもなく立ち上がる。 「雪が本降りになってきた。このままだと帰れなくなる」 雪になれていない町では、交通機関はすぐに混乱する。涼太の家はそんなに遠くはないけど、バスを使ってもいいぐらいには離れてる。こんな日は歩いていられない。30分ごとにやってくるバスに今なら間に合う。 俺はすぐに立ち上がった。  部屋を出て、廊下をスタスタ歩く。涼太がその後ろをついてくる。  今ならまだ帰れる。  だけど、このままだと手遅れになる。  畏れにも似た気持ちにせかされて、俺は後ろも見ずに靴を履いた。玄関を開けると白い粉雪が舞いあがった。 「いっそ泊まってけば? 部屋あるし」 「制服どうするんだよ。朝から自分ちに戻るのなんて嫌だよ」  俺はいかにも急いでいるそぶりでマフラーを直すと、カバンを手に立ち上がった。ここに瑞樹や人のいい浅野家の母親まで出て来たら面倒だ。 「それじゃあ、また明日」 涼太の返事を聞かずに浅野家を出た。俺はせっつかれたように足を早める。
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