4.冬の町……和真

10/14
前へ
/250ページ
次へ
 雪は本格的に降り積もろうとしていた。  音もなく空の闇から降り落ちてきて、たちまち世界を真っ白に塗り替えていく。静かでいて有無を言わさず、いつの間にかあたりはすっかり雪景色だ。  何も許した覚えもないのに、勝手に降って、勝手に変えて、全部に自分の印をばらまいて、そして俺の身動きを封じる。もう、油断して歩けば足元が危ない。  いつの間にこんなに積もってしまったのか。  雪も、涼太とのあれこれも。  途方にくれた気分を噛みしめながら、俺は何かに抗うようにずんずんと雪の中を進んでいった。  ほどなくしてバス停に着いたが、誰もいなかった。  だが往来の車を見る限り、突然の雪であきらかに運行に支障をきたしており、予定通りにやってくるとも思えなかった。  俺は脱力して、ベンチに腰を下ろした。手袋なしの指先は赤く痺れていて、いくら擦りあわせても温まらない。諦めて仰ぎ見れば、大きな綿のような雪がさらに勢いを増している。  俺はそのままぼんやりと雪に埋もれていく世界を見ていた。  大丈夫、今ならまだこのまま家に戻り、明日が来て、何事もなかったように昨日の続きができる。  気づいてしまったことを無しにできなくても、雪のように全てを覆ってしまえばいい。  友人とか、幼馴染とか、腐れ縁とか、被せるフィルターはいくらでもある。  まだ大丈夫。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加