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カタカタと膝が震えだした。
靴の中のつま先の感覚がない。案の定、時間を過ぎてもバスは来なかった。でも動くのが面倒だった。先の見えなさに、いっそ家まで歩くべきか、迷い始めたところで雪を蹴る足音が近づいてきた。
俺は顔を上げられなかった。騒々しい足音だけでわかる。あの音は涼太だ。
「和真!」
その声と同時に、涼太は俺の腕を掴んだ。
珍しく息切れしている涼太の、ダッフルコートの肩に雪がのっかっている。思い立ってそのまま飛び出してきたのか傘もさしていない。無音だった世界が突然生き返ったように賑やかになる。
「……なんで来たの」
俺は動かず、何かに観念したように聞いた。涼太は髪の毛についた雪を払いながら言った。
「トンカツさ、母さんが弁当にしてくれたから、これ」
「それでわざわざ? いいのに、」
「何言ってんだ、揚げたてマジで最高なんだぞ」
涼太は白いビニール袋を俺に押し付けた。
俺がほぼ一人暮らしなのを知ってから、涼太は頻繁に自分の家に誘うようになった。
今回の勉強会だって、本当は自分のテストのせいじゃなく、俺に夕飯を食べさせるためだって気付いてる。
早く切り上げようとすると、あれがわからない、ここを教えろと引っ張られて、ほぼ必ず夕飯を食べる流れになり、遠慮しても家庭教師代だと言われて押し切られる。
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