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「戻れよ涼太、風邪ひく」
涼太はよほど寒いのか止まっていられず、その場で足踏みを始めた。だが、俺は凍り付いたように動けない。涼太が振り返って笑った。
「バス、来るまで付き合うよ」
「いいから帰れって」
「うちは大丈夫だって。それよりなかなか来ないな、もう結構、時間過ぎてるのに」
涼太は俺の言葉などろくに聞いておらず、道路に踏み出して吹雪の向こうを眺めた。
「なあ、俺送るから、歩かない?」
「そんなことしたら涼太の方こそ戻れなくなるだろ」
――――――――――――戻れなくなる。
いっその事、いいのか、と問いかけたかった。自分にも、涼太にも。
「いいよ、全然」
だが、涼太は俺の言う事なんて聞かずに、俺の手を握って、強引に引っぱった。もはやそこに俺の答えなんて必要としないほどきっぱりと。
「和真、滑るから俺につかまっとけ。急ぐぞ。それ絶対、温ったかいうちに食った方が上手いから。和真頬っぺた真っ赤じゃん。熱じゃないだろうな」
涼太は無遠慮にぺたっと俺の額に触る。駄目だ、冷えててわかんないや、と首を傾げた。そしてしきりにしゃべって、俺の様子を伺う。
「離せよ。掴まらなくったって歩ける」
ようやく俺は無愛想に言った。冷たくすれば、せめてまだ取り繕えるような気がしたからだ。
「危ないから駄目。……それに、なんか離れてんの勿体ないし」
涼太は最後だけ小声で言って、へへ、と笑った。馬鹿だ。
戻れなくなる。俺も。そして、お前も。
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