5.春の夜……涼太

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 俺たちはまだ、はじまってもいない。  あの夏の庭で足踏みしたまま、どこにも踏み出せないでいる。 「涼太、お待たせ」  補習を終えた和真が手を振って走ってくる。 補習と言っても赤点の方じゃなくて、希望者用の受験対策講義だ。クラスが違ってしまった上に、帰りまで別々なのは嫌だったから、俺は時間を潰して待っている。 「毎日いいのに。涼太だってやることあるだろ」 「別に。それに俺が部活あるときは和真だって待っててくれてたじゃん」 「そりゃそうだけど、和真の部活は毎日って訳じゃないから」  和真は走ってずり落ちたリックを持ち直した。  なかなか息切れが収まらない。参考書をつめこんだリックが肩に食い込んで重そうだったから、俺は手を差し出した。 「持つ?」 「何でだよ、女の子じゃあるまいし」 和真は少し怒ったような口調でそういうと、早速、歩き出した。
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