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俺たちはまだ、はじまってもいない。
あの夏の庭で足踏みしたまま、どこにも踏み出せないでいる。
「涼太、お待たせ」
補習を終えた和真が手を振って走ってくる。
補習と言っても赤点の方じゃなくて、希望者用の受験対策講義だ。クラスが違ってしまった上に、帰りまで別々なのは嫌だったから、俺は時間を潰して待っている。
「毎日いいのに。涼太だってやることあるだろ」
「別に。それに俺が部活あるときは和真だって待っててくれてたじゃん」
「そりゃそうだけど、和真の部活は毎日って訳じゃないから」
和真は走ってずり落ちたリックを持ち直した。
なかなか息切れが収まらない。参考書をつめこんだリックが肩に食い込んで重そうだったから、俺は手を差し出した。
「持つ?」
「何でだよ、女の子じゃあるまいし」
和真は少し怒ったような口調でそういうと、早速、歩き出した。
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