5.春の夜……涼太

5/9
前へ
/250ページ
次へ
「なあ、明日の休み、どっか遊びいかない?」 なのに性懲りもなく俺は和真を誘う。 「悪いけど無理かな。今日も結構課題出されたし」 和真は断ることを決めていたみたいに、すぐにそう答えた。 「遠くじゃなくていいから、ちょっと」 「何しに行くの」 「えーと、だから探検?」 「ほんと好きだね」 和真がやっと笑った。  俺もつられて嬉しくなる。  和真の髪が伸びて、襟足にくっつきそうになっている。  もうそろそろ切る頃だ。校則のぎりぎりまで伸ばして、いきなり短くする。そんなサイクルまでわかってるのに、その頭の中はちっともわからない。  なんだか好きって言ってからの方が、和真が遠くなったみたいだ。  それは俺の『好き』が空回りしてるせいなのかもしれないし、和真には迷惑だったって事なのかもしれない。 「涼太? どうしたの。珍しいね、ぼんやり」 「いや……えーと、ほら」 俺は思ってたモヤモヤを言い出せず、誤魔化すために頭上の月を指さした。 あと少しで満月になろうというそれは、歪んだ丸が光を湛えて煌々と闇夜を照らしだしている。 「きれいだ」
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加