5.春の夜……涼太

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俺が立ち止まると、和真もその場で足を止め、夜空を見上げた。 「本当だ。今日はすごく大きく見える」  シャープな顎のラインと、男の割に細い首。  去年までは、もっと幼さを残した輪郭だった。瞬きもせずに静止している横顔は月の光に照らされて発光してるみたいに白く光る。  ずっと一緒で見慣れてるはずなのに、俺はつい見惚れてしまう。  しばらく月を見ていた和真が、月よりも和真をみている俺に気付いてふわっと赤くなった。  色づいた花みたいだ。 「何だよもう。ほらいい加減、帰らないと」 「いいじゃん、別に急がないし。明日は休みだし」  人目がない方が、和真は少しだけ優しくなる。  だから補習帰りの夜道は特別だ。こんな風にとりとめもない事をいいながら、一緒に歩いてる時間が好きだ。 「遅く帰ると瑞樹、何か言わない?」 「あいつなんか生意気な事しか言わないよ。小さい頃は可愛かったのに」 「今だって可愛がってるじゃん、すごく涼太のことわかってるし」 「えー、それはさあ、からかうのが好きなだけじゃない?」  俺ののんびりした答えに合わせて、和真の歩調もゆっくりになる。  俺たちにあわせて夜空の月もついてくる。  和真はまだ急がなくちゃいけない理由を探そうとしているのか、時折、落ち着かない瞬きをする。  つらつらと話をしていると、歩いている道の先に交差点が見えてきた。ここら辺がちょうど真ん中で、ここでいつも分かれ道になる。  和真といるとすごくあっという間だった。俺は離れ難くて、わざとらしくはしゃいだ声をだした。 「なあ、寄り道しようよ」
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