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そうだ、和真はきれいだ。
授業中の横顔も、登下校の時の真っ直ぐ前を見て歩く感じも、何気ないのに俺はときどきハッとする。柔らかそうな黒い髪の毛も、緑が映えるぐらい白く透明な肌も、考え深い瞳の色も、庭におそろしいほど溶け込んで、そのまま同化してしまいそうだった。
和真がこの庭を好きでいるように、この庭も和真に恋しているみたいだ。水をくれてやる和真にもっともっとと枝葉が伸びて、身悶えしている。
そして俺も。
俺も、和真がきらきらした特別に見えて仕方ない。
でもそれは急に落ちてきた気持ちでもなくて、実は密かに溜まっていたものが、こうやって二人きりでいると目をそらしきれないのに違いなかった。
「あ、見て、涼太。小さい虹になった」
珍しく弾んだ声で和真が俺を呼んだ。ホースの水がうまく散って、木の先から空に向けてななめに七色の虹がかかっている。
「和真の作った虹だ。すごい」
「プリズム現象だろ。涼太にだって出来るよ」
和真は水を止めて、俺を縁側に誘った。腰かけると水筒を差し出す。
「ほら、飲んで。麦茶冷えてるから。全部飲んじゃってもいいよ。おにぎりもあるし」
「でもこれ和真のじゃん」
「いいよ、手伝ってくれたお礼だ。えーと、梅干しと鮭とツナマヨかな」
「一個でいいよ」
「無理しなくていいよ。大食いのくせに」
和真は頑固に言い張る俺に呆れたように言った。
俺は水筒を傾けた。ガラガラと中の氷が鳴って、冷たいお茶が一気に喉を潤す。本当は全部飲めたけど、なんとか我慢して半分ぐらい残した。
「はい、和真。すごく美味しい」
「うん」
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