5.春の夜……涼太

7/9
前へ
/250ページ
次へ
「今から?」  案の定、渋い返事が返ってくる。俺はあえて陽気に笑う。 「今年、花見してないんだ。公園とか、まだ咲いてないかな」 「桜が見たいの?」 「うん」  呆れたように涼太が口角を上げた。しつこくしたらいけないのはわかってる。  だけど俺の足は交差点の手前から動かない。  和真は途切れた会話の合間に、また月を見た。  和真は気まずくなると、俺を見れない代わりに月をみてるんだって、やっと気が付いた。  そんなに和真を困らせてるのか。ちょっとそれは厳しい。いや、かなり寂しい。 「夜桜ってほら、なんか綺麗じゃん」 弁解するように言った。 「うん」 「今しか見れないし」 「んー……」 俺の声を聞き流しながら、和真は傾いて滴が零れそうな月に向かって、ゆっくり瞬きをする。 そして、そのまま言った。 「じゃあ、うちの庭、来る? ばーちゃんの」 俺は和真の思いがけない提案に、目を見開いた。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加