5.春の夜……涼太

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 和真はやっと月から目線を外して、まっすぐに俺を見た。普段、黒々とした瞳が、月を反射して水面みたいにキラリと光った。 あの庭。 あの夏から行っていない――――――――――――あの。 俺は操つり人形みたいに引き寄せられる。   「和真」 俺は和真の頬を包んで軽く持ち上げた。和真に触れたその指先には、無駄に力が入り過ぎている。でも制御がきかない。そのまま顔を近づける。 「……外では嫌だ」 「見てるヤツなんかいない」 俺は反論ごと和真の口を塞いだ。  俺の頭の中はその柔らかさでいっぱいになる。ここが外だということも、さっきまで視界を埋めていた大きな月も、全部忘れた。 「ふ……っ、」  じゃれ合いを装って触れた唇は、きっと馬鹿正直に俺の欲情を和真に伝えてる。  されるままだった和真が、ぎこちなくその手を俺の背中に回した。するりと収まった腕の重みに、俺の中が熱く高まってくる。  発情している。  月も花も俺たちも、全部が春風と言う名の微熱の中で、ぐらぐらと煮えていく。
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