6.春の夜……和真

1/12
前へ
/250ページ
次へ

6.春の夜……和真

 ずっと考えていた。  見えない砂時計の砂がさらさらと落ちて、ゆっくり、だけど確実に溜まっていく。  この砂の溜まる音を気配で聞きながら、秋も、冬も過ごした。  気持ちはもう、わかってる。だけどその先に進むべきか否かの答えはでない。  それでも季節がめぐれば花が咲くように、その砂がいっぱいになれば、次の段階に移るしかない。ふわふわしながら、俺は砂の音を聞く。 「ここら辺も昔は結構、住んでた人もいたらしいんだ。だけどみんな年をとっちゃって、家を手放したり、そのまま放置したり。閑静な場所って言ったら聞こえはいいけど、ほとんど山の中でしょ。けっこう登るしね、だからここまでの道、使う人がほとんどいなくて獣道みたいなんだよ」  俺は、普段の何倍も饒舌になって、ばーちゃんの庭までの道を歩く。  反対に隣りの涼太はあまりしゃべらない。横顔を覗き見ると馬鹿みたいに真面目な顔をしている。いつもと逆だから調子が狂う。  だけど、それを笑う資格はない。俺たちはたぶん、二人して浮足立っている。 「ほら、ついたよ」  ようやく家が見えて、俺は鍵を取り出した。心臓がきゅっとした。それを悟られないように、なるべく自然に錠前をはずす。  きい、と金属が軋む音をたてて、古びた鉄の門が開いた。  そこには圧倒するほどの春の花が咲き乱れ、俺たちを出迎えた。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加