6.春の夜……和真

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 涼太が脱ぎ捨てた靴が、縁側の下に転がった。  行儀が悪い、と思いながら、俺はもう、キスできるぐらいまで涼太が近づいているのに、障子の桟に手をかけたまま動きを止めている。  涼太はそれしかないみたいに、早口で言った。 「和真、お前のこと好きだ。触っていいか」 「……うん」  涼太はまた一歩俺に近づき、コツン、と額を合わせた。  俺は全然普通のふりをしていた。額が触れてるだけで、こんなに鼓動が早いのに。 「ねえいつから? 俺のこと、そういう風に見るようになったの」 俺は呟くような声で、ずっと聞きたかった問いを、口に出した。 涼太は子供をあやすみたいに、優し過ぎる声で言った。 「たぶん初めから」  涼太の答えに鼻白んだ俺は、スッと躰を引いた。  はじまりといったら俺の転校の時だ。  確かに黒板の前に立って自己紹介する俺を涼太は真っ直ぐ見つめていた。けど、あの頃なんてどこからみても子犬みたいなガキで、恋愛感情なんて無縁としか思えない。  俺は真剣に聞いた分、口から出まかせをいわれた気がして、不機嫌になる。 「ほんとなのに」  涼太はそんな俺の気配を察したのか、困ったように首を傾げた。 「ただ和真が気付かなかっただけだよ。前も言ったろ」 「俺が鈍かったってこと?」 「そうだよ。まあ俺も子供だったから、好きでもどうしたらいいかなんてわかんなかったけど。だからずっとひっついてたきたでしょ。俺、けっこう頑張ってきたつもりなんだけどな」
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