6.春の夜……和真

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「運命じゃない?」 涼太はひるまずに俺を引き寄せた。手のひらがすでに発熱しているみたいに熱い。 「運命とか、一気に嘘くさくなるからやめてよ」 「嘘つく必要なんかないだろ」  涼太は優しく笑った。  最近になって二人きりのとき、涼太はとみに大人びた顔付きになる。  急に成長したのか、俺の方が恋愛に関して子供並みなのか。それとも単に俺が、涼太の気持ちを意識し過ぎて、化けの皮がぼろぼろはがれているだけなのか。 「和真ってさ、」 熱をはかるときみたいに、もう一度、額をつけたまま涼太は続けた。 「ほんと、甘えんの下手くそな。淡々としてるようで寂しがりで、人付き合い苦手な割によく見てるし、こんなに綺麗なのに自信なくて、何から何まで危なっかしいのな」 「なにそれ、全然褒めてないよ」 「そういうとこも全部好きって話だよ」  俺はうつむいた。  すぐ下に涼太の唇が見える。薄く開いた口から、きれいに揃った歯が覗いてる。  俺は内側で暴れる鼓動を聞きながら、次に目が合ったらもう、この勢いを止められないことに気付いていた。  流されないように体は身構えるのに、気持ちはもう流されようとしている。待っていたのは涼太なのか俺なのか、またわからなくなる。  涼太の指が俺の背中から滑って、腰に行きつく。そのまま指に力が籠って誘うように腰骨を鷲掴みにする。
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