6.春の夜……和真

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   「俺とするのやっぱ怖い?」 「今さら聞くの」  答えた時、反射的に目が合った。  涼太に惹きつけられる。  引き込まれそうな黒々とした目と、愛嬌のこぼれる唇が誘惑する。  こんな苦しさは、知らなかった。やっぱり駄目だ。  このまま傍にいて、この先も何日も、何年も、打ち消し続けるようなことを―――――――――  ―――――――――――できる、はずが。 「涼太」 「ん?」  俺は、不意打ちで唇を押し付けた。涼太の躰がすくむ。庭の桜の木が、禁忌を唱えるように一斉にざわつく。  うるさい。庭も、桜も、頭の中で落ち続ける砂の音も。  瞼を閉じて、全部を打ち消す。 俺からの初めてのキスは、ぎこちなく震えてる。
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