6.春の夜……和真

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 これまで必死に留まろうとしていた場所を、俺はもう自分で手放してしまった。  違う。  そう思いたかっただけだ。  雪の中で涼太への気持ちを自覚してから、俺はもうそこにはいなかった。  ほんの数秒触れただけで離れると、涼太は固まったまま俺を凝視していた。 「こういう時は、目を瞑るもんだよ」 その驚きがあからさまで、俺は居たたまれずに憎まれ口をたたく。 「キスぐらいで動揺してるようじゃ、その先なんてできるの」 「それって和真から誘ってる?」 涼太が有無を言わさず抱きすくめる。 くっついた身体から、涼太の心音が響いてきた。もう突き離せない。俺も涼太に腕を回す。制御がきかなくなって、ぎゅっと抱きしめ返す。 何やってるんだ、と俺は内心で舌打ちをする。 これじゃあ、抜けだすことなんて永遠にできないじゃないか、と。
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