6.春の夜……和真

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 口の端から生温かい唾液が伝わって落ちる。  俺は下になった体をくねらせた。  涼太は無遠慮にズボンのジッパーを開け、まさぐる指が愛撫を始めた。慣れない疼きに腰が浮くと、片方の手でずるりと脱がせ、俺の足をむき出しにした。  春の空気はまだひんやりしていて、たちまち冷える下半身が心もとなくて泣きそうになる。それを忘れさせようと涼太が太腿の間に頭を埋める。  濡れる。掻きまわされる。 「や、め……そんなとこまで」  涼太は返事もせずに没頭する。畳に最後の抵抗をするみたいに、桜の花びらがひらりひらりと舞い落ちる。  あの夏に感じた、痺れるような快感が蘇った。腰が震えだして、内側からうねるような感覚だ。この波にのったら最後、何もかもがどうでもよくなってしまうのに。 「痛い?」 ぬるぬるになった場所に、そっと指が入った。今日の涼太は慎重だった。痛くない、とやっとの想いで言ったら、うん、と頷いた。動きが激しくなる。  それだけの刺激でもう俺の呼吸は浅くなる。試すように、確かめるように、挿れられた指が中でうごいていた。俺はきつく歯を食いしばった。  声が漏れてしまう。  俺の吐息と、風の音が混じり合う。  執拗に抜き差しされ、そのたびに水っぽい音がくちゃりと響いた。  涼太の前でどんな格好をさらけ出しているのか考えたくもなかった。片側の足の膝下には脱げきらないズボンがぐずぐずに溜まっている。俺は腕で自分の顔を覆う。  いきなり指を抜かれ、さらに覆いかぶさった涼太の重みが増した。
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