7.夏の夕暮れ……瑞樹

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7.夏の夕暮れ……瑞樹

 部活の合宿が終わって、俺は急ぎ足で迎えの車にのる。  オレンジ色の夕焼けが目に刺さるように眩しい。  荷物が石みたいに重かった。汗まみれの運動着、合宿所に持って行った宿題のワーク。背中にずっしり食い込むリックを肩から降ろすと、やっと解放された気分になった。  ようやく夏休みがやってきた気がする。 「瑞樹、おかえりー、お疲れさまね」 運転する母さんの助手席に座ると、俺はすぐに尋ねた。 「ねえ涼太は?」 「和真君とこ泊まってるよ。それから涼太じゃなくてお兄ちゃんって呼びなさい」 「いいじゃん、別に。もう俺の方が背も大きいし。なんだよ、今日、俺、戻るってちゃんと言っといたのに、ほんといい加減。合宿の話聞かせろって自分で言っといて」 俺はふて腐れて悪態をつく。 「背は関係ないでしょ。それに和真君はよく勉強教えてくれて助かってるし。お兄ちゃん、和真君が一人だから放っておけないんじゃないかな。今夜はカレー作るって台所の材料持ってったよ」 「勉強なんか嘘だよ、どうせ遊んでんだ」  俺は、勝手に決めつけて、シートに体を沈めた。  沈む前の太陽が茜色に空を染め上げる。鮮やかに燃え上がっているのにどこか破滅的な匂いのするその空と、あの二人の関係はそっくりだ。 「まあいいじゃない。友達と一緒にいるのが一番楽しい年頃だものねえ。何人も呼んで夜中まで騒いでるんじゃ心配だけど、二人だけだって言うし、和真君はしっかりしてる子だから大丈夫よ」 母さんはおっとり笑ってハンドルを切る。 「ふーん、和真のこと信用してるんだね」 「だってもう小学生から知ってるのよ。まさかあんなに綺麗になるとは思わなかったけど」 汗がひかなくて、俺はエアコンの風量を上げた。フロントにぶら下がった小さなお守りが揺れる。小さな鈴の音。  この車で何度も家族旅行に行った。安全運転のお守りは涼太が買ったやつだ。  俺たちは仲良し家族だと思う。  人の良い父さん、優しい母さん。明るい涼太、しっかり者の俺。  でも涼太の気持ちはここにはない。  それを本当は家族の皆が薄々気付いている。    ただ、誰も言わないだけだ。
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