7.夏の夕暮れ……瑞樹

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 その日、涼太は自分でごく普通に夕飯の後で母さんに聞いた。 『ねえ、俺、もらいっ子だよね? そういうのはっきりした方がいいと思う』  これまでの人生でおよそ嘘なんかついたこともない母さんは狼狽して、しどろもどろになった。それをフォローしようとして間に入った父さんも、感極まって泣いちゃったから全然どうしようもなかった。 『それでもお前はうちの子だ! 血のつながりなんか問題じゃない、うちの子だ!』  連発した台詞の全部が、涼太が実子でないことを証明していた。  俺ももう、とっくに知っていた。  本家のばあちゃんがいつも俺を何気なく贔屓するから、理由を聞いたのだ。 『涼ちゃんはほんとの子じゃないからねえ。みっくんが早く生まれてくれればねえ』 ばーちゃんはぼろぼろと涼太がもらわれてきた経緯を話した。 『困ったよねえ、今さら返すわけにもいかんしねえ』  俺は小さかったけど、内心でばあちゃんの態度に猛然と反発しながら、絶対に涼太には内緒にするって決めていた。父さんも母さんも気持ちは一緒だったと思う。  うちの家族にとって涼太はとっくに大切な存在だった。だから両親も血縁にこだわるつもりはなかったんだろうし、俺も自分こそ長男なんだって主張する気もなかった。  だからこの話は永遠に封印されて終わるはずだったのだ。  肝心の、涼太が口に出すまでは。
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