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『なんでわかったの』
その時の俺の詰問にも、涼太は淡々としていた。
『ねえ、やっぱ、ばーちゃん? そうでなきゃ隣のおばちゃんが漏らしたんでしょう? 違う? 向かいのおじさん? おしゃべりな角の家の人? それとも親から噂を聞いた友達のだれか?』
『やめなよ。なんでそんなに犯人探しみたいなことしたいの、瑞樹は』
『だって』
俺には重大なことだった。
ここまで大切にしてきた家族の繋がりを壊されたのが我慢できなかった。でも一番ショックなのは涼太のはずだ。なのに俺ばかりが、やり場のない怒りで喚き散らしていた。それも涼太の部屋にづかづかと押し入って。
『いいんだ。俺、薄々、ここんちの子じゃないって思ってたよ』
『なんでだよ!』
『爪の形が違う』
涼太は両手を広げて見せた。
すんなり伸びた指、その先にアーモンドみたいに整った綺麗な爪。
『小さい時から思ってた。父さんと手をつないだ時とか、母さんに抱っこされてる時とか。でもそれは大人と子供の違いなのかなって思ってた。でも赤ちゃんの頃から、瑞樹の爪の形はちゃんと父さんのと同じだった』
黙ってしまった俺に、涼太は言った。
『爪だけじゃないんだ。髪の毛の質や目鼻立ち、体質まで、俺はこの家の人間と同じと思えるものがない。ほら、見てみろよ』
涼太は机に飾ってある家族写真を目線で示した。
その写真は、しばらく前の旅行で涼太が撮ったものだった。旅先の写真はほとんど涼太が撮る。父さんのカメラを奪って、涼太がいつも写真家気取りでシャッターを切るのがうちの恒例だった。
撮った写真は、両親と俺との三人が映ってる。
その時もタイマーにしてみんなで映ろう、って父さんは言ったけど、涼太が、絶対に上手く取るからって譲らなかった。
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