7.夏の夕暮れ……瑞樹

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 俺は涼太の本心に触れたくて、内緒で調べようと決意した。  でも、涼太はすばしこかった。  びっくりするぐらい勘がよくてすぐ気付かれたし、わずかな差でまかれて置いて行かれた。もしくはすっぱり出かけることを諦めて遊ぶか。  俺はいつまでたっても核心に触れることはできなかった。 『ほんとうに瑞樹はお兄ちゃんが好きねえ、いつも後を追いかけてばっかり』  母さんは目を細めて嬉しそうに言う。  涼太もそんな時ばかりはアニキ面で、ゲームや追いかけっこに付き合う。家の中はあくまで平和だった。  俺は涼太と遊びながら、俺と涼太との違いを観察する。  うんと小さい時は涼太を万能で大きいと思っていたけど、年々、体格差は縮まっていった。  お下がりの服がきつくて入らない。俺は大柄な父さんにそっくりだったから、たぶん、数年後には逆転するだろうと思った。実際、そうなったが。  涼太の躰は身軽で、ひょろりと細くて敏捷だった。元々の骨格も細い。色素の薄い、茶色のゆるいウェーブのかかった髪。童顔でちょっとタレ気味のおっきな目をした涼太には、そのふわんとした雰囲気がよく似合ってる。  俺は、涼太が必死に探したのかもしれない共通点より、俺たちが違っている部分にこそ惹かれてた。  それは美点ではないのかもしれないけど、俺は自分の堅苦しさより、涼太の大らかさに憧れた。  服は脱ぎっぱなしだし、寝坊はするし、携帯も定期もぼろぼろ忘れるし、つまり、だらしないっていうか、適当っていうか。  文句を言っても、そんなところが嫌いじゃなかった。    でも、それだけじゃない。  俺は、なぜか盲目的に涼太の能力を認めてる部分があった。昔見ていたカッコいいお兄ちゃんの片鱗を、時折感じる瞬間があるから。
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