7.夏の夕暮れ……瑞樹

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  その間も、涼太がふわっといなくなることは、ずっと続いていた。  あの時も俺は、学校帰りの涼太を追いかけようとしていた。  でも、気配で察したのか、涼太は俺に気付かないふりで猛ダッシュをした。やっぱり全然追いつけなくて、このまま永遠に追いかけっこをするのかと思ったら、急にやりきれなくなった。 『ねえ!』  人目も憚らず、俺は叫んでいた。その姿は見えなかったけど、声を張り上げれば近くにいるはずの涼太にまだ聞こえる距離だった。 『涼太、どこ行くんだよ、教えてよ! 出てくるまで名前呼ぶからな!』  周りを歩いていた人がざわつき、俺を見る。構うもんか、とさらに大声で叫んだ。 『りょうた!』 恥ずかしさで赤い顔になりながら、もう一度怒鳴ろうかと息を吸い込んだところで、涼太が路地から姿を現した。むくれている。でも俺は思わず笑顔になった。 『ばーか、うるさいだろ』 『だって兄ちゃんが逃げるからじゃん』 『声でかすぎ、いいからこっち来い』  涼太は俺の手を握って、そのままてくてく歩いた。人の目が痛かったけど、涼太と一緒に行けることが嬉しくて、どうでもよかった。  俺は期待して、しばらく大人しくついていった。だけど、無言でひたすら歩くだけだ。どこまでいくつもりなのか全くわからない。  一時間近くも歩いて、ついに俺は音を上げた。 『ねえ、何するの』 『してるじゃん、探検』  俺は聞き違ったのかと思って、オウム返しでその言葉を繰り返した。  探検? 涼太が頷く。間違いじゃないらしい。 『何があるの』 『別に、何があるかなんてわかんないよ』 涼太は怒ったように続けた。 『気がむいた時に、思いついた方向に歩いてくだけなんだから。バスとか電車を使うこともあるけど』 『え……じゃあ、ほんとに探検?』 『だからそう言ってるだろ』  俺は心底呆れて、その場で棒立ちになった。  子供じゃあるまいし。って、じゅうぶん、俺たちはまだ子供だったのだが、さすがにそこまで無邪気でもない。  そんな俺に、涼太は手のひらを突き出した。
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